2018年9月14日金曜日

地震後の停電生活

地域医療のススメ専攻医2年目の横田です.
4月から半年間,北海道十勝いけだ地域医療センターで研修をしています.

皆さんもご存知の通り,北海道胆振東部地震が9/6にありました.
池田町は人命に関わる被害はありませんでしたが,停電の影響で数日間はバタバタとしていました.
被災地からの声ということで報告させていただきます.

9/6午前3時過ぎ,突然の揺れで目が覚めました.最初はちょっとした地震だと思い寝ようと思いましたがなかなか強い揺れだったので起き,テレビをつけましたがつきません.ケータイをみて津波の心配のないことは確認し私は寝てしまいました.朝起きても電気はつかぬまま…これは大変と思い病院へ.

病院にはすでにたくさんの職員の方が集まっていました.地震直後から病院に向かった方が多かったようです.
2度寝してしまった自分を恥ずかしく思いました….
地震当日は非常用電源しかないため,節電しながらの外来診療(薬が足りなくなった方への5日分処方と救急対応のみ)となりました.
転倒して骨折した方や怪我をした方,自家発電を試みてガスが発生し気分が悪くなった方(おそらくCO中毒)などいましたが数名で重症な方はいませんでした.
電気がないと身体診察のほかできるのはエコーぐらいです.エコーがすぐ使えることは本当にありがたいことだと思いました.
急遽,紙カルテの対応となり不慣れな環境での外来診療となりましたが,薬剤師,看護師,放射線技師,事務,皆さんの協力で特別困った事態はありませんでした.

停電してすぐに問題になったのは透析患者さんの対応です.非常用電源を透析に使用すると消費電力が多くなってしまいます.でももしこのまま停電が続き(復旧に1週間以上かかるかもしれないとの噂もありました)透析ができなかったら命に関わる問題です.話し合いの結果,地震翌日から最小限で透析を回そうということになりました.結果として翌日には電気は復旧したため透析問題は無事解決しました.看護師さんが1人1人に連絡して安否の確認や体重管理の注意を呼びかけてくださったことが印象的でした.

もう1つ印象に残っているのは食事の問題です.冷蔵機が使用できない,物資が届かないためコンビニやスーパーから食材がなくなってしまいました.患者さんの食事提供すら危ぶまれ,急遽メニューを考えなくてはならないため栄養士さんは病院に泊まり込んで作業してくださいました.でも食事量が足りず,カップ麺などを買って食べていた患者さんもいたようです.職員の食事はもちろんなくなり,おにぎりやカップ麺を食べる日々でした.停電が解消してすぐに物流がスムーズになるわけではないので,食糧不足は数日続きました.

今回の地震で,電気の大切さが身に染みました.電気がないと日常生活のほとんど全てに支障があります.電気がなくなっても数日は困らないよう災害にむけての準備はしておくべきだと思いました.これは一般家庭でも病院でも同様です.
今回の地震が9月だったのは不幸中の幸いでした.これが真冬の季節だったらと思うとゾッとします.さらに多くの死者が出ていたことでしょう.

皆さんの病院でも災害マニュアルの見直しなどご検討いただければと思います.






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2018年9月1日土曜日

OHSUで感じた、日本との違い

みなさん、こんにちは。S4児玉です。日本はまだこんなに暑いんですね。
7,8月と2ヶ月間、オレゴン健康科学大学のfamily medicineを見学してきましたので報告します。
家庭医がたくさん!
日本とアメリカの家庭医療における一番の違いは何かと聞かれると、家庭医の数でしょうか。Kansas City で開かれたアメリカ家庭医療学会のカンファレンス(日本の夏季セミナーのようなイベント)に参加させてもらいましたが、プログラム説明のブースには全米から何百というプログラムが集まり、話を聞きにきた学生たちでごった返していました。家庭医療が進んでいないと言われる東海岸でも、大学でfamily medicine について必ず習っているし、どの州にもプログラムがあります。家庭医が多い理由はその歴史にありそうでした。米国では1970年代にはすでに家庭医療のresidencyができ始めていました。OHSUでは現在指導医をする医師はほぼ全てfamily physicianで、その中にははOHSU residencyの卒業生も多くいます。つまり、同じ境遇のレジデントを、自分がされてきたように指導する、理想的な形が完成しています。
日本では医学生の多くは家庭医、総合診療医が何かを教わらずに卒業します。ようやく若手の家庭医が増えてきたところで、多くのプログラムは指導医不足です。でも、高齢化はアメリカより早く、複雑な問題を抱える患者に対する対応に長けている家庭医はむしろ日本の方が必要とされているのではないかと感じました。

                
教育システムについて
学生教育
1年生の学生と見学した日がありました。彼女は3ヶ月以上一人のfamily physicianについて勉強していました。family medicineに興味があるため、選択期間をすべてfamily medicineに当てたそうです。患者さんのところに行って予診をとり、アセスメントとプランまで考えて医師に報告していました。これは日本では研修医1年目でやっていることでしょう。こうした臨床に即した教育が4年間提供されることもあって、こちらの研修医1年目は日本の研修医より臨床現場をよく知っているし、知識も豊富です。このシステムはマンパワーが必要なので日本では現実的ではないのかもしれませんが、座学中心、大学病院ではほとんどうしろで見ているだけの日本と差ができて当然でしょう。いきいきと楽しそうに勉強している学生の姿が印象的でした。

クラマスフォールズにあるプログラム、Cascade Eastで1週間見学
一番右のWarren先生の家にホームステイしました
レジデントの教育
水曜日の午後はdutyが免除されて勉強会に参加できます。1年目は他にも免除される時間を設けてあり、レジデントの学習の機会はたくさん取れるようにしてあります。レジデントは2週間ごとにクリニックと病院と他科研修を行き来していますが、これはアメリカの中でも少数派のやり方のようです。週1回は自分のクリニックに戻るので、4年間継続して見られる患者がいることが最大のメリットですが、クリニックと病棟両方で弾く次が発生するのでどうなのかな、と思ったりもしました。

OHSUで知り合った日本人の学生、レジデントで結成した望月会

日本の家庭医の強み
日本の方が上手なこともたくさんあるように感じました。以下箇条書きにして見ました。
・家庭医療のコアについては僕らの方が学ぶ機会が多い
・高齢者が多く、家庭医的なNarrativeを意識した診療がfitしやすい。
・病院やクリニックへの物理的・金銭的アクセスが良いので、比較的短期間での外来フォローをしやすい
・クリニックの規模が小さいので、個人的な継続性は維持しやすい。(専攻医は別ですが、、)
・担当する患者が多いので、数で経験を積んでいる
・保険のシステムがわかりやすい
日本では家庭医・総合診療医がまだ新しいためか、家庭医療のコアについて熱く語れる指導医は日本の方が多いのでは?と感じました。
そうした知識を学び、後輩たちに伝えていくことはとても重要ですね。

湯沢に来てくれた時から交流が続いているJason
野球に2回、サッカーに1回 連れてってくれました
この日は地元サッカーチームTimbersの試合
 これから何をするのか
望月先生との秘密対談
アメリカで1980年代に起きていたことと、今の日本の総合診療で起きていることは非常に近いと感じました。そして、日本の総合診療は発展途上で、これから日本にあったように形を変えていくのだということを再認識しました。日本はアメリカに比べて総合診療医が少ない、指導医の数が少ない、診療範囲が狭いなど様々な疑問がすっきりとしました。分化しつつある日本の総合診療に関わっていくことはとてもやりがいがあるなと感じました。今後僕たちが何をすべきなのか、自分なりに考えたことは2つあります。一つは学生・研修医に総合診療の面白さを伝えられる医師になって、総合診療医を増やすこと。もう一つは専門家との良好なコミュニケーションで総合診療医がいかに効率よく全体を見られるのかを知ってもらうこと、ひいては質の高い研究で政策にも影響すること、、、。話が大きくなりましたが、一人では全部できないので、みんなで作っていくしかないですね。

また、僕らが日常的に参考にしている情報、論文や2次資料の多くがアメリカの情報をもとにしています。エビデンスが生まれた場所の文化や医療の背景を知った上で活用すると、また少し深みが出てくるのかなと感じました。

書き終えてから、藤沼先生がとてもタイムリーな内容に触れている記事を見つけました。興味がある方は読んで見てください。100倍重みがあります。


 
ポートランドには小規模の
brewery(ビール醸造所)がたくさん
毎日のように行きました
iPhoneをバスに踏まれたり、水道管が詰まって下水が風呂から沸き上がったり、バス停の目の前にまさかの駐車で罰金くらったり色々ありましたが、充実した2ヶ月を送ることができました。
こうした機会を作っていただいた協会スタッフの皆様、OHSUスタッフの皆様に感謝いたします。














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