2017年3月27日月曜日

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1年を振り返って

   地域医療のススメ・東京北医療センター総合診療科後期研修医 S1 齋藤 浩史 です。
   現在東京北医療センター総合診療科に戻り研修中です。今年度の研修内容ですが
4~6月:東京北医療センター総合診療科
7~12 月:十勝いけだ地域医療センター
1~3月:東京北医療センター総合診療科
上記のような研修内容でした。
   早いもので研修プログラムに参加させていただき、1 年がたとうとしています。1 年前の
自分と比べて「ここが成長した!」と胸をはって言う自信がないのが悲しいですが、少し評価してもよいかと思う点は自分の疑問点を二次資料や文献を使うような意識がついてきた点については評価してもよい点かもしれないと思っています。
   先日の症例ですが、8年前に右結核性胸膜炎・膿胸治療を他院で受けられた 83 歳男性が
発熱で入院しました。当院入院時の胸部 X 線で右 CPA の透過性の低下を認め、胸部単純 CTでは右下肺野に淡い浸潤影と胸膜の肥厚・被包下胸水を疑う所見を認めました。結核性胸膜炎・膿胸の治療後に関しては認知症や高血圧などとともに近医かかりつけで胸部 X 線でフォローされていたそうですが、経時的に増大傾向をみとめていたとのことでした。むせこみがあったとのことで誤嚥性肺炎を 1 番に疑い、胸膜の肥厚や被包下胸水を疑う所見もあり熱源として充分可能性はあるかと考えつつ SBT/ABPC で治療を開始しました。
   結核性胸水・膿胸治療後で長期的にどんな合併症があり予後はどうなのか二次文献にあ
たってみました。UP TO DATE には「結核性胸膜炎」で調べたところ治療後長期的には治療後約 50%の確率で胸膜胼胝が起こりえることが書いてありましたがその他に関しては明言されていませんでした。「膿胸」で調べたところ、記載はありませんでした。Dynamed では、「結核性胸膜炎」で調べましたが項目なく、「膿胸」で合併症に胸膜胼胝の記載がありましたが予後に関しての記載はありませんでした。困ったなあと思い、論文検索したところ
『Predictors of Outcome and Long-term Survival in Patients with Pleural Infection』(Am J
Respir Crit Care Med. 1999 Nov;160(5 Pt 1):1682-7 PMID:10556140)という論文をみ
つけました。4 年間追跡のコホート研究で、症例数自体は 85 人で少ない印象ですが 4 人の
かたが入院中の治療中に亡くなり 8 人が退院後に亡くなりました。4 年生存率が 86%であ
り、死亡した方のおもな原因として虚血性心疾患が 4 人・乳癌 1 人・頭頸部癌 1 人・気管
支扁平上皮癌 1 人・気管支肺炎 1 人という結果でした。予後はそれほど悪くないのと、死
亡理由として胸部や頭頚部など上半身の癌が多い印象でした。『British Thoracic Society
Pleural Disease Guideline 2010』では、20 年以上経過した膿胸関連のリンパ腫がまれなが
ら 2%認められたとの記載がありました。以上踏まえ、結核・頭頚部癌・肺癌・リンパ腫な
どの可能性も考えました。造影 CT では明らかな悪性腫瘍を示唆する所見なく可溶性 IL-2R の上昇もありませんでした。幸い抗菌薬治療で解熱し右下肺の浸潤影の消失を認めました。呼吸器内科 Dr とも相談し胸水は穿刺が難しく、経過からは今回の主病因ではないと判断し外来フォローの方針としました。不十分ではあるかもしれませんが自分なりに考え判断できた症例であったかと思っています。
   来年度の目標として、臨床だけでなくポートフォリオなどの作業を少しづつ進めていく
ことはもちろんですが、総合診療科での勉強会も積極的にやっていきたいなと考えていま
す。以上簡単ではございますが、1 年の振り返りと近況報告とさせていただきます。