2020年7月7日火曜日

WEBで研修体感企画「研修医日記」(月間地域医学2018年12月号より)

病院見学など直接現場を感じる機会が少なくなってしまった中、少しでも研修の雰囲気を感じて貰えれば、という思いから、WEBで研修体感企画として「研修医日記」の掲載を致します。地域医療振興協会が発行する情報誌、「月刊地域医学」のバックナンバーより、基本的に毎週火曜日、金曜日に掲載する予定です。
(※掲載の情報などは当時のものとなっております)


ススメ専攻医3年目になりました,吉岡です.前回から約2年の歳月が流れました.これまでをざっと振り返っておくと,2016年12月から小児科研修のため茨城県石岡市で3ヵ月過ごした後,古巣である東京北医療センター総合診療科に凱旋(?)し,その後台東病院で一般病棟・回復期病棟・療養病棟・老人保健施設と総合的に高齢者医療を学びました.
そして,これまでに経験したことのない診療科を回りたいと思い,2017年10月から意を決して東京ベイ・浦安市川医療センターへ再び乗り込み,腎臓内科→総合内科 →ICUと研修させていただきました.2018年7月からは奈良市立都祁診療所に移り,現在に至ります.
 旧都祁村にあたるこのまちは奈良県の北に位置し,『奈良のシベリア』とも言われています.実際に2月ころには雪が降り数日は積もるそうです.人口約5,500人のうち実際にかかりつけであるのは10%程度で,ふもとの天理市や隣の宇陀市といった周辺の病院に通院している患者さんも少なくありません.
一方で,例えばがんのターミナルで通院ができなくなった患者さんが在宅医療へ移行する際の受け皿という大切な役割があり,かなり頼りにされている印象です. 私が診療所で研修を行うのは後期研修医になってからは初めてのことです.日々の業務は外来と訪問診療,予防接種や乳児健診, 有料老人ホームや特別養護老人ホームへの定期診察と多岐にわたり,週に3回は17 ~ 19時までの夜間診察もあるため,意外に忙しいことに驚きました.最近は訪問件数も増えてきており,スケジュールのやりくりに苦慮しているところでもありますが,それだけニーズがあるということなのでやりがいがあります. また,直前まで東京ベイのICUにいたこともあり,180°以上真逆 のセッティングにはじめは戸惑うこともしばしばありましたし, 正直に言えば今でも慣れません.診療所にはCTやMRIはありませんし,検査技師さんもいません.血液ガス分析もできません.緊急対応が必要そうな患者さんが不意打ちで訪れたときは,最低限の採血とレントゲンとエコーを駆使して頑張るしかありません.そうしている時間さえ惜しいときもあります.家で診られるか?今からふもとの病院に自家用車で行ってもらうか?救急搬送するか? ・・・・・・病院にいたときよりもずっと,緊急性や重症度を客観的に評価することの大切さ, 難しさを今更ながら痛感しています.

セッティングの違いといえば,在宅医療においては『引き算の医療』なのかなと思うことがあります.医学的には妥当なこと,必 要な検査や治療が受けられるべき状況にあっても,本人や家族がそれらを望まない場合もあります.実際に,20年以上も頸髄症の術後後遺症に悩まされ徐々に屋内歩行もままならなくなってしまった70代男性が,1~2ヵ月の経過で食思不振と体重減少を来したため,家族から往診依頼がありました.私たちは消化管悪性腫瘍を疑い検査受診は医学的に妥当だと考えました.しかし本人はこれまでの医療不信から絶対に受診はしないという強い思いがあり, 家族と何度も話し合った末,自宅で看取るという方針に至りました.これが本当に正しいのかは分かりません.しかし,ここで私たちの意思決定を助けてくれたのは,東京ベイで日々学んでいたAdvance Care Planningをはじめとする臨床倫理の考え方でした.家族にとってはつらい選択であったかもしれません.私もとても苦しかったです.ただ,最期は自宅で穏やかに亡くなり,家族の方が「後悔はない」とお話ししてくださったのが救いでした.
これまで病院で学んできたことをどう診療所の医療に落とし込んでいくかが,今後の私の課題です. 初めての関西・奈良ライフをもっと謳歌しながら,残りの診療所研修を楽しんでいきたいと思います

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