2015年5月18日月曜日

救急の女か虎か

こんにちは、昨年度一度投稿させていただきました、S1の児玉です。
3月中旬から初期研修と連続で3ヶ月半、東京ベイ浦安市川医療センターの救急部で研修中です。
ベイ救急のシステマティックな診療体系についてはここでは割愛させていただきますが、ベイの救急では有用と思われるClinical Prediction Rule(CPR) を積極的に利用して診療に取り入れているのがひとつの特徴です。そんな中でも乳幼児の頭部外傷について頭部CTの撮影をするかどうかを決めるCPRである”PECARN”はもっともよく利用するCPRの一つです。
そんな”PECARN”に関して、先日記憶に残る患者さんがいました。
 8ヶ月の男の子が階段を上から下までごろごろ落ちて、頭の後ろに大きなたんこぶを作って救急外来に運ばれました。PECARNでいうと、中リスクに該当して、「経過観察をしても、CTをとってもよい」という結論になるのですが、僕は指導医の先生から「2日以上入院するような人が1%いるけがのためCTで早めに見つけられるかもしれないが、1万人に1人が将来脳腫瘍になる」ということを教わり、その事実を伝えた上でお母さんにCTを希望するか聞きました。お母さんは自分1人では判断できないからとお父さんとおじいちゃんに電話し、電話で説明し、様子を見ないと分からないからと2人が来院し、来院後も説明を繰り返したところ、息子の落下の原因は自分にあると思っていたお父さんは診察室でわんわんと泣き出してしまいました。その後お父さんは知り合いの脳外科医に相談し、それでも判断がつかなくて結局4時間迷った後に、CTを撮らないことにして帰って行きました。
 自分としては正しい情報を与えたはずなのですが、自分の中で答えの決まっていない問題はいくら説明しても患者さんは迷うだけ。初期研修で名郷先生に教えていただいた「女か虎か」の話を思い出しました。(興味のある方は下から読んでみてください。)自分の好きな話の一つです。
 その後、”PECARN"と合わせてCTと脳腫瘍の関係についても勉強しました。頭部外傷のお子さんは毎日のように救急外来に来ますが、怖がらせない程度に正しいことを伝えつつ、「○○なのでCTをお勧めします。」とか「○○なので家でしっかり見てもらって、△△のときはいつでも来てください。」と自分の意見を強調するようにしています。安全と安心を提供するためには、まだまだ学ぶことも経験することもたくさんあると感じる日々です。


女か虎かの全文訳↓10分くらいで読めますが、1日くらい考えさせられます。

http://f59.aaacafe.ne.jp/~walkinon/ladyortiger.html



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1 コメント:

Unknown さんのコメント...

児玉先生

救急研修頑張っていますね。患者さんへの説明、悩むこともありますね。事実の伝え方は本当に難しいと思います。
日々の経験の蓄積から成長していくわけですが、事実の伝え方もまたそうなのでしょう。救急では患者さんやその家族の背景までをすべて知ることが難しいので、なおさら伝え方も難しいと思います。
先生の中でのコツができたらよいですね。

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